プロに任せて、デザインも整っている。
広告もかけている。
それなのに、なぜか売れない。
今回ご紹介するのは、地方で鶏肉加工を行うメーカーが初めて挑戦した自社ECの事例です。
問題は「施策が足りない」ことではありませんでした。
抜けていたのは、“成長段階に合わせた戦略設計”と、“企業らしさを軸にした仮説”でした。
見た目では分からない違和感の正体と、そこからどう立て直していったのか。
EC立ち上げ初期にこそ考えるべき、本質的な設計についてお届けします。
このシリーズでは、Webメディア『地図をひらく』編集長・イエティママのインタビューを通して、ヘノブが実際のクライアントワークで直面した課題や、そこからどんな判断・選択をしてきたのかを掘り下げていきます。
売上が伸びた/改善できた、という結果だけではなく、その裏側で何を考え、何に悩み、どう決めていったのか。
普段はあまり表に出ない“考えていたプロセス”を、そのままお届けするシリーズです。
※このお話は、実際の相談をもとに構成したフィクションです。
このエピソードに登場するひと

むらせ
ヘノブファクトリーのWebコンサルタント。
好きな鶏料理は唐揚げ。

イエティママ
イエティの母。
Webメディア『地図をひらく』編集長。
EC運営やサイト運営の悩みをテーマに、実際の現場で起きた出来事を取材している。
成功事例の“結果”よりも、その裏側でどんな試行錯誤があったのかを丁寧に聞き出すのが得意。
今回の事例
クライアント:地方で鶏肉の処理・加工を行う企業
サイト:自社ECサイト
商材:鶏精肉/鶏肉加工品
お悩み
- 初めての「自社EC」をオープンしたものの、全く売れない
- 広告はクリックされているが、購入には至らない
- 成功事例を真似したはずなのに、うまくいかない
事例のポイント
- 「整っているEC」と「売れるEC」はまったく別物だった
- 成長段階を無視した戦略は、データも学びも生まない
- 一般論ではなく、“この会社らしさ”から再設計した
見た目は整っている。でも、売れない

むらせさん。
今日も、ヘノブさんがこれまで関わってきたお仕事について、色々教えてください。
この鶏肉専門ECの会社さん、しっかり売れるようになるまでにちょっと時間がかかったんですね。
他の会社とは何が違ったんでしょうか?

この企業さんは、地方で鶏肉の処理・加工を行う鶏肉卸の企業さんなのですが、本業はECではなくBtoBでして、このECが初めてのBtoC販路だったのです。

なるほど、ではサイトの立ち上げからヘノブさんでご支援したのですか?

いえ、ヘノブにご相談にいらした時は、サイトが出来上がってオープンから半年ほど過ぎたころでした。

では、サイトの構築とオープン後の運用はどなたがされていたんでしょうか?

クライアントさんから聞いたところによると、食品専門のコンサル会社に、サイト制作から運用までお願いしていたそうです。
ここでは、このコンサル会社さんを、仮にA社さんと呼びますね。

プロがついていたのですね。それでどうして、半年後にヘノブさんにご相談することになったんですか?
ご相談時のサイトはどんな状態だったんでしょうか?

私が初めてサイトを拝見した時は、デザインも商品写真も整っていて、一見すると“ちゃんとしたECサイト”でした。

一見すると特に問題がなさそうなのに、何があったんでしょう?

一言では語れないくらい問題があったのですが……
食肉会社さんは、「プロに任せているから大丈夫」と、初めは安心して任せていたそうです。
広告をかけて、初めて違和感に気づいた

まず、A社さんでサイト完成後に行ったことは、広告だったそうです。
でも、アクセスは集まったものの、想像以上に売れなかったとのこと。

広告を出しても、全然反応がなかったんですね。
それってよくあることなのでしょうか?

食肉会社さんも、はじめから簡単に売れるものではないことは理解していたそうで、「初めはこんなもんかな」と思っていたそうです。
しかし、それから2ヶ月たち、3ヶ月経ち、半年経っても状況が変わらず……
そのとき初めて、「何かがおかしい」と感じたそうです。
ただし、何が悪いのかは分からない。
企業として初めてのECサイト、CVRという言葉も知らない。
UIや導線をどう見るかも分からない。
何が起きているのか判断できない状態だったそうです。

それで、セカンドオピニオン的にヘノブさんにご相談にいらしたと。

そうです。
はじめのご相談は「ちょっとうちのECを診てもらえますか?」という相談でしたね。
プロに頼んだのに、なぜ?

A社さんってプロなんですよね?
それなのに、どうしてこんな状態に?

そう思いますよね。
でも、“A社さんがダメだった”という話ではないと思っています。
実際、A社さんは、他社で成果を出した経験がある会社だったと思います。
ただ今回のケースでは、成功した他社のやり方を、そのまま持ってきてしまった、という点が噛み合わなかった。

なるほど、他の会社ではうまくいった方法でも、こちらの食肉会社さんでうまくいくとは限らなかったのですね。

そうですね。
実際、一見するとそれなりに作られていたECですが、後に、“企業としての強み”や“イチオシ商品の理由”などを聞くと、「この企業さんらしさが出ていないな」と感じました。
いわゆる、よくあるECの見た目、という感じでした。
ECが立ち上げ初期だという前提が抜けていた

A社さんが持っていた他社での成功パターンと、こちらの食肉会社さんでは、何が違っていたのでしょうか?

まず、今回はECがまだ立ち上げ初期でした。
サイト運用は始まっていましたが、
食肉会社さんではBtoCの販売自体が初めての取り組みで、データが溜まっているとは言えない。
もう一つ、サイトとしてのスタートの状態であれば、データが取れる部分は広告が大部分を占めるのですが、広告の設計も“スタート時特有の状況”を加味したものではなく、分析に使えるデータはかなり限定的でした。
本来、スタート時には、何がどんなふうに売れるか、予め仮説を立てて、データを取りながら1つ1つテストマーケティングを回していくべきです。

テストマーケティング??ちょっと難しい話ですね……

ここ、実は「EC戦略設計」と言うかなり高度な話なので、
極力わかりやすい例で話しますね!
EC立ち上げ時に必要な考え方
イエティが作った「雪だるま」を売るとします。
でも、初めて売るので、「欲しい」と思ってくれる人がいるかどうかがわかりません。
しかし、隣の山では雪女が作った「雪うさぎ」がよく売れていると聞きました。
雪女のお店と同じように売れるようになると良いですが、
この場合、
- 雪女が作ったから売れてるのか?
- 雪うさぎ自体が人気なのか?
など、「売れている理由」がわかりません。
そこで、この「雪女が作った雪うさぎを買っている人」がどんな人なのかを整理します。
- 雪女のインスタをフォローしてる人が多い
- 可愛いものを好む女性がよく買っている
- 購入者は買った雪うさぎをインスタにアップしている
ということが見えてきました。

雪にお金を払ってくれる人であることは間違い無いですが、この人たちはイエティの雪だるまも買ってくれるでしょうか?

売れそうな気もしますが、失敗しそうな気もします……

そうですよね。
このままでは危うくてチャレンジできないので、「限りなく売れそうが気がする!」まで高める必要があります。
次にこんな仮説を立てます。
- 雪だるまをもっと可愛いビジュアルにしたら売れるかも
- イエティもインスタで作り手アピールをしたら売れるかも
- インスタ映えするように、白だけじゃなくカラフルな雪だるまもあれば売れるかも
- 上記で売れるとすると、若い女性がメインターゲット?

仮説を立てたら、次は1つずつ試していきます。
これがテストマーケティングです。
(例え話なのでだいぶ端折ってますが、実際には、もっと仮説の精度を上げるために色々やります。)

なるほど!初めての取り組みの際には「試してみる」という考え方が大事なのですね。

そうです!
ECでは、実店舗と違って、万が一失敗してもやり直せますし、色々気軽に試せるのがいいところなのです。
「テストマーケティングを回す」とは?

テストマーケティングで結果がでたら、次はどう進めるべきでしょうか?

テストマーケティングは、結果として「当たり」「外れ」のどちらもあり得るのですが、結果が出た際に
・どうして当たったのか
・どうして外れたのか
を正しく分析することが大切です。
雪だるまのテストマーケティングを回した結果が以下だったとします。
- 可愛いビジュアルのものはさほど売れない。シンプルなものが売れた。
- イエティのインスタは年配のフォロワーが多くついた
- カラフルより白い雪だるまが売れた
- 購入者は年配女性
- ギフトで購入する人が多い
- 広告では「雪だるま プレゼント 孫」での検索が多い

あら…..私だったら、予想が外れて、「どうしよう!」ってただ慌ててしまうかも…..

慌てなくて大丈夫です!そのためのテストマーケティングですから。
ここから、また「購入者がどんな人か」の仮説を立てます。
- 昔ながらの白い雪だるまを好む→素朴な感じが好き?
- 年配女性がギフトで買っている→孫へのプレゼント?
新たな仮説をもとに、新しいテストマーケティングを回します。
- 「イエティが1つ1つ丁寧に手作り」をもっと訴求したら売れる?
- 家族、友達とお揃い雪だるまを作ったら売れる?
- ギフトラッピングで「高山植物のリボン(有料)」などつけたら、単価が上がる?

なんだか希望が見えてきますね!
予想とは違ったけど、イエティの雪だるまを気に入ってくれる人が具体的に見えてきてワクワクしますね!
テストマーケティングでの「データ取得」の重要性

このように、仮説とテストマーケティングを繰り返すことで、「このお店ならではの成功パターン」を作っていくのです。
もしこの時、
・購入者の性別・年齢のデータ
・検索のキーワード
が取れていなかったらどうでしょう?
そもそも、仮説を立てていなかったら?

売れたとしても、何が原因で売れたのかわからないままで、次のステップに進めませんね。
しかも、売れたらなまだしも、売れなかった場合には完全に手詰まりになりますね…..

まさに、この食肉会社さんで起きたことがこれではないかと思います。
話を戻しますが、
今回のA社さんの場合は、そもそも、「この食肉会社さんに合わせた精度の高い仮説」を立てていなかったのでは無いかと思います。
A社さんのやり方は、すでに運用実績があるECを前提にした設計だったため、想定通りにならなかったこと自体が「想定外」で、行き詰まってしまったのではないかと思います。

なるほど、ECスタート時の「テストマーケティング」、そのための「仮説」の重要性がよくわかりました。
商品設計が“どこにでもある形”になっていた

ここまでのお話を聞くと、「どんな商品を誰に対して売るか」の設計がとても重要だと思うのですが、この食肉会社さんでは、初めはどんな状態だったのですか?

まず、商品ラインナップですが、「焼き鳥セット」など、一般的な食肉ECでよく見る構成でした。
間違ってはいないけれど、“このお店だから買う理由”が見えにくい状態でした。

一見すると間違っていない状態を、企業さん自身が気づくのって難しそうですね。

そうだと思います。
この食肉会社さんも、元々のトップページで大々的に「焼き鳥セット」が訴求されていたので、
「これが御社の一押し商品なのですか?」と質問したところ、
「コンサル会社に、これが一般的に売りやすいから、と言われ、その通りに置いていただけ」と言う回答でした。
「一般論じゃなく、もっと御社らしいものを売っていきませんか?」と話したところ、
「やっぱりそうですよね!専門家が言うのだから…..と鵜呑みにしていたのですが、実は我が社としては、別の商品をもっと売れるようにしたいのです!」
と、突っ込んで質問して初めて、色々出てきました。

専門家に依頼していても「何かおかしい」と感じたら、セカンドオピニオン的に他の会社の意見を聞いてみることも大事ですね。
広告を“検証装置”として使っていなかった

この企業さんでは、サイトが完成した後、広告をかけるところまでは進んだと思うのですが、この時、本来は何に気をつければよかったのでしょうか?

失敗することが想定されていなかったので、
広告も、初めから売上を作るためのものとして運用されていました。

売上のために広告をかけるのは当たり前だと思うのですが??

もちろん、その考えは合っています。
でも立ち上げ初期では、広告はまず仮説を確かめるための道具であるべきなんです。
売り上げを上げるための広告は、集客すれば売れることがわかっている際に取るべき施策です。この場合、基本的にはある程度の金額を継続的にかけることが一般的です。
一方、テストマーケティングのための広告は、集客してみてユーザーがどのような動きをするかのデータが取れれば十分なので、少額で短期間だけ広告をかけます。データが取れたら、一旦広告は停止してデータから改善点を読み解き、改善後に再度広告をかける、と言う流れです。

なるほど。
こう聞くと、初めから売れると信じて、大きく広告費をかけるのって、ちょっとギャンブル的な感じがしますね…..

そうなんです。
だから、初めから大きく広告予算をかける、広告をかけたらかけっぱなし、ではなく、
・このデータを取るために、まずは1ヶ月広告を回してみる
・この仮説を確かめるために、このページに集中して広告をかける
など、かなり具体的な目的を持って広告をかけるべきです。
また、スタート時は、とにかくテストマーケティングを細かくたくさん回す必要があるので、予算配分も、広告費だけでなく、ページ改善の制作費なども含めて考えておいた方が良いです。

想定通りに売れなかった場合の対策・予算も考えておく必要があるのですね。
ヘノブが最初にやったこと

この案件、聞けば聞くほど問題が山積みのようで…..
ヘノブさんでお手伝いすることになった時は大変なスタートになったのではないでしょうか?
一番初めは何から取り組んだのでしょうか?

そうですね、再スタートと言う形だったので、初めから全部やり直す必要がありました。
しかし、小さなテストマーケティングをたくさん回すと言う軸は変わらないので、
1、まずは丁寧にサイトデータを分析
2、企業様や商品の強みを分析
3、精度の高い仮説を立てる
4、仮説に沿って、現状の悪い部分を改善(合わせて、データが取れていなかった部分も改善)
5、直ったら広告をかけてテストマーケティングを回す
を繰り返していきました。

“何が売れそうか?”の仮説はどうやって作ったのでしょうか?

ここは、企業さんの強みがベースになります。
この食肉会社さんの場合、BtoBの販路では「売れやすい」「売れにくい」がすでにデータとしてあったのですが、ご要望として、「既存のBtoB販路では引き合いがないけど、自分たちとしては自身のある商品があるので、それをECで売りたい」とのことでした。
なので様々なデータと合わせて、「売りたいもの且つ売れそうなもの」の軸で商品設計をしていきました。

でも、売りたいもの=実際に売れるもの、とは限らないですよね?

そうですね。
でも、ヘノブとしては、企業さんが一生懸命作った自信作を出来れば売ってあげたいのです。
なので、直接、製造現場に赴いて、こだわりのポイントなど色々見学させてもらいました。

あら!そこまでやるんですか?

はい、ヘノブの専門は自社ECですから。
モールでは、広く大衆に支持されるもの・価格勝負できるものが売りやすいですが、自社ECでは、企業さんの魅力が詰まった独自性の高い商品が売りやすいです。
なので、EC向きの商品かどうか見極める必要があります。
結果的に、自他共に認める素晴らしい商品で、ニーズも見込める商品でしたので、ぜひこれを売りましょうという話になりました。
売る商品を決めたら、次は「迷わせない設計」

売る商品が決まると、今度は、その商品が売れやすいように導線設計、訴求設計をする必要があります。

導線設計という言葉はよく聞きますが、ECでは特にどのあたりを重視していますか?

ECで一番重要な導線はヘッダーです。
グローバルナビゲーションと呼ばれるメニューのエリアには、売りたい商品にすぐに行ける仕掛けが必要です。
元々のサイトでは、スマホ表示では、グローバルナビゲーションがなくて、ハンバーガーメニューと呼ばれる画面右上の三本線のメニューを開かないとリンクが見えなかったのですが、これでは興味のある人以外は目に入りませんので、サイトに来たら必ずイチオシ商品が目に入るようにしました。

お店側からすると、「メニュー開いたらあるから大丈夫」って思っちゃいますが、確かに。お客様全員がわざわざメニューを開いてくれるわけではないですもんね。

はい。そのようにして、サイト中、隈なくユーザー目線でチェックして、抜けていた導線を全部入れていきました。
戦略よりも難しかった「信じてもらうこと」

かなり細かい点まで見て改善していったのですね。
確実な方法といえど、順調に売れてくるまではそれなりに時間がかかりそうですね。

実はここが一番大変でしたね。
戦略設計して、施策を考えて、実行して、効果検証して、作業としてはどれも大変なのですが、一番大変なのは、企業さんが私たちを信じて、売上が上がってくるまで、一緒に頑張ってくださったことだと思います。

一度専門家に依頼して失敗した経験をお持ちだと、また信じてついていこうって、本当に勇気のいることですよね。

はい、企業さんからこれまでの経緯を聞いて、並々ならぬ覚悟でヘノブにご相談してくださったことは痛いほどわかりましたので、
「これは絶対に成功させて喜んでいただきたい!」と強く思いました。
その後、改善を繰り返し、製造が追いつかないくらい売れた時には、本当に喜んでいただけて「ご支援してよかった」と思いました。
違和感から始まる、戦略の見直し

ここまで聞いて思ったのですが、今回のお話しは、「違和感」から「販売戦略」を見直したことで成功できたのかなと。
この食肉会社さんの場合、「売れない」ことで違和感に気づきましたが、本来売りたいものが売れないまま、なんとなく運営してしまっているECは意外と多いのかもしれませんね。

そうですね、「戦略設計」をきちんとしないままECをスタートすると、
なんとなく売れてはいるが以下のような問題が起きることがあります。
・薄利多売
・価格勝負から抜け出せない
・いつまでもリピーターがつかない
このような状態は、本来の企業や商品の強みを発揮できないまま商売を続けている状態ですので、このような「違和感」を感じたら、戦略を疑ってみる必要があります。

「本当は何を売りたいのか」「どんな人に買って欲しいのか」を、改めて考えてみることも重要かもしれませんね。
編集後記|イエティママより

今回のお話を通して強く感じたのは、
ECは“正解を当てにいくもの”ではなく、“自分たちの正解を作っていくもの”なのだということです。
イエティママの注目ポイント
- 「成功事例」をそのまま持ち込んでも、必ずしも成功しない
- 立ち上げ初期のECは「売る」よりも「検証する」が先
- 広告は集客装置ではなく、検証装置として使うという視点
- 企業が本当に売りたい商品を軸に設計し直したこと
- 戦略よりも難しかったのは「信じ続けてもらうこと」

売れている誰かのやり方を真似ることは、一見近道に見えます。
けれど本当に強いECは、その企業にしか語れない強みと、検証を積み重ねた戦略から生まれるのだと改めて感じました。
違和感を放置せず、立ち止まり、設計を見直す。
それは遠回りのようでいて、実は一番の近道なのかもしれません。







